「星の王子様」~バイアスコスト~

皆さんもよく知っているサン=テグジュペリの星の王子様 読まれたことはありますか?

「心で見なくっちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。肝心なことは、目に見えないんだよ」とこの本の一節にあります。

企業経営に関しても同じことが言えます。

「目に見えないのに確かにあるコスト」というものがあります。

なんだと思われるでしょうか? あまたの経営学や財務に関する本には載っていませんが、どの企業にも少なからず、というよりは、かなり大きなウェイトを占めるコストなのです。

なのに、このコストの削減に対する処方箋は、ほとんど開発されていません。

研究開発費?、いやいや人にかかるコスト、そう人件費! 違う違う情報に関するコストですよ!・・と

いろいろとご意見があるかと思います。

ここでご紹介したいのは、私が企業経営のコンサルティングに携わってきた経験で実感した3つのコストです

まず1つ目は、バイアスコストと呼ぶことにします。

今回は、この バイアスコスト について考えてみたいと思います

まず真っ先に、バイアスコストってなに? と思われた方がほとんどだと思いますが、 「バイアス」という言葉の意味が分かる方なら、おのずとピンとくるでしょう。

「バイアス」とは、「偏り」という意味です。

そうです。バイアスコストとは、人の偏見から生まれてくるコストです

業務改善のコンサルティングを行っていると、よくこんな場面に遭遇します。

「うちの業界では、それが当たり前なんですよ。」

「そんなの他にやってるところ見たことありませんよ」

「社長が認めるわけないですよ」

「常識的に考えて・・・」

などなど

経歴の長いベテランの方に見られがちですが、ここ最近は若い方にも、この傾向をよく目にします。

社長から、「どうも業務改善がすすまないんですよ。スピードが遅い。先生、なんとかしてください!」というご相談を受けて、いざ現場に行くと、これらの言葉がお題目のように、ほうぼうから聞こえてきます。

Wikipediaには、

・認知バイアス - 非常に基本的な統計学的な誤り、社会的帰属の誤り、記憶の誤り(虚偽記憶)など、人間が犯しやすい認知の誤り。

・感情バイアス - 感情的要因による認知と意思決定の歪み。

・正常性バイアス - 災害があっても自分だけは大丈夫と思うこと。特に自身に耳の痛い情報は入らないこと

・生存者バイアス - 生還した者からは意見が聞けるが、生還できなかった者から意見は聞けないこと

と4つのバイアスが紹介されています。

認知バイアスとして多いのが、便利なネット社会で、自分の知らないことをちょちょいとググるとあれよあれよと情報があふれ出てくるので、実際に体験することなく、画面で見た情報だけで判断し、方向性を誤るケースです。

上場企業で内部統制のコンサルティングをした時のお話です。

内部統制のプロジェクトマネージャーから、

「先生、内部統制をPDCAで運用することも考えると、スケジュールを前倒しでする必要がありますので、RCMと業務処理統制記述書の文書作成を急がなければいけませんね!」

とのこと

ほんとによく耳にします。この言葉・・・(同業の方からも)

でも、なぜか ざわざわと違和感が残ります。(ひょっとして私だけ?)

ここで脱線ですが、内部統制という言葉ですが、これは、過去、アメリカのエンロンやワールドコムといった超巨大上場企業が、巨額の粉飾を行い数千人、数万人の退職年金を水の泡にしてしまうという事件を契機に、単に作成された数字のみではなく、その作成プロセスが正しく行われているかをチェックせよという趣旨で、管理プロセスを監視する制度が作られ、その制度が日本に輸入されたときに Internal Control がそのまま訳されて 内部(Internal) 統制(Control)となったものです。

なので、私見まじえて平たく言えば、管理活動をチェックすることですから、内部統制という言葉が出てきたからと言って、なにも真新しい概念でもなんでもなく、従来から企業が粛々と行ってきた管理活動の重要性を再認識してもらい実効性を高める!ということが主眼なのです。そのツール(道具)として、RCMや業務処理統制記述書といった文書があります。

話を戻して・・・

で、本来、管理活動のプロセスを見直して実効性を高めることが主眼であるはずの内部統制のコンサルティングが、どこからか内部統制に利用する文書を作成することが主眼となってしまって、目的と手段が置き換わってしまっていることが多いのです。

プロジェクトマネージャーは、ネットでよく書かれている内部統制の進め方を勉強され、

「期限までにRCMと業務記述書を作成しなければ、内部統制のPDCAにまわせない!」と・・

結果、チェック文書が山積みになって、意味のないなんとか判のオンパレード

ざわざわしませんか?

何百人もいる会社で、しかも上場しているのですから、フォーマルであれインフォーマルであれ、それまでに管理活動が構築され、規定やルールがあり、業務マニュアルがあるはずです。でないと組織として活動できません。

ですが、内部統制の文書作成に何千万円というコンサルティング料を支払ってRCMと業務処理記述書ができあがったものの、肝心の業務プロセスの改善については、「この業界でそんなことしている会社はほかにないですよ!」という言葉・・・ざわざわざわ・・・

これでいいのでしょうか?


もうひとつ 感情バイアスについて、

これは、ほんとにどこにでもありますね。

たとえ話が古くて申し訳ないですが、昔、山崎豊子さん原作の「白い巨塔」という医局を舞台にしたドラマがありました。(個人的には唐沢さんのバージョンが好きですね)


そのドラマで、主人公の財前教授が、自分の恩師である東教授の退職前の最後の総回診に、個人的な感情から、その回診に出るのが嫌で、わざと自分の担当の手術の日程をその当日に変更するというシーン。

現実にも似たような場面をよく見かけます。

懸案となっている重要な議題の当事者である取締役が、なぜか役員会の日に出張・・・

目の前の席にいる部長に直接言わずに、帰宅後メールで報告・・それで初動の遅れから注文キャンセルやクレーム対応

これら避けようと思えば避けられたはずのコストって、どう削減できるのでしょうか?

次回は、3つのうち、2番目のコストについて紹介したいと思います。

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